事例紹介①「常に良く見られたい、でも…」 [キャリアカウンセリング]
キャリアカウンセリングは、通常カウンセラーとクライアント(相談者)の一対一です。したがって、そこでのやりとりは他者にはまったく知られることはありません。また、カウンセラーには守秘義務があります。つまり、そこでのやりとりを他者に漏らすことは倫理上禁じられています。
今回、私のカウンセリングでのやりとりの一部をクライアント本人の許可を得た上でご紹介します。
尚、便宜上●でサブタイトルをつけました。又、流れがつながっていない部分があります。
>=がクライアントの言葉、何もなし=私の言葉です。
長くなりますので、●の項目を順に先にご紹介します。
主訴→やりたいこと→できること→「作り込んだ自分」と「素の自分」→不安と焦り→両親との関係
(以下、やりとり)
●主訴
>今、正直何をすべきなのかもよくわからない感じです。今はやりたい仕事より出来る仕事なのかな? とか考えています。やはり、仕事の方向性を変えた方が良いのでしょうか。
●やりたいこと
>私のやりたい仕事は、誰かの役に立つ仕事です。なぜならば、「何かをしてあげたい」という気持ちが人より強いと思います。もちろんそういう事が好きなのもありますが…。
そういう事とは、人と直接接して、その人の役に立つことが好きということでしょうか。
>そうです。例えば、あるディサービスのボランティアに行ってた時は、少しだけ生きている実感がありました(大袈裟かもしれませんが…)特に何をしている訳では無いんですけどね。
なぜ、特に何かをしている訳ではないのに、生きている実感があったのでしょうか。
>かなり身勝手な事なのかもしれませんが、自分が安心したいのかもしれません。つまり、「誰かの役にたつ」=「自分が安心する、自分の存在意義を確認出来る」そんな感じです。
他人へ何らかの行為をする→自分の存在意義を確認する→自分を安心させる、という感じですか。
●できること
>その一方で、仕事を選ぶときに自分の出来る事からとは思ってはいます。前までは、早く自立したい、だから正社員に・・という気持ちが強くありました。しかし、(早く自立したい、だから正社員に・・)このような気持ちが無くなったって言えば、嘘になりますが…。
「早く自立したい」と強く感じているのですね。
>今の現実を考えたら無理な事なのかもしれません。だから、今は自分のできる事からするのが自立への一番の近道のような気がします。無理をして、また転んだら(体調を崩したら)また一から出直しになります。でも少し前までしていた派遣の仕事は、なんとか続いたんです。だから、むしろ次に繋がる事なら収入面のことは重要視しません。
以前なさっていた派遣の仕事はできた。その派遣の仕事は、具体的にはどんな仕事ですか。
>仕事の内容的には難しい事ではなくて、時間的にも短かったですし、体力的には問題ないと思いました。でも一番の続いた要素は、精神的に負担が軽かったって事だと思います。仕事をするのは、ほとんど1人でしたし(たまに2人の時もありました)、他の方と接する事が殆どっていって良いほどありませんでした。したがって、仕事の内容がどうとかより、余計な事(人間関係など)を考えなくてすんだのが良かったのかと思います。でも正直また同じ仕事を…って言われると考えてしまいます(考えてる場合じゃないんですど)でも、今できる仕事はこのような仕事くらいしかないのかもしれません。
●「作りこんだ自分」と「素の自分」
話は変わります。仕事をしているとき、あなたは同じ職場の上司ではなく、「同じ立場で仕事をしている人と接することがすごく苦手」ということをお聞きしましたが、もう少し詳しく聞かせてください。
>そうですね。自分と近い立場に居る方です。
自分と近い立場に居る方ですか。それは、どうしてなんでしょうかねぇ。確かに以前お聞きしたときも、ミーティングで意見を求められること、職員の前で何かを話すことが苦手とお聞きしました。具体的にはどの辺で負荷を感じるでしょうか。
>ミーティングに限らず普段の会話も苦痛というか苦手です。
普段の会話も苦痛ですか。ただし、自分と近い立場に居る方との会話がそうなんですね。しかし、その一方で利用者さんやお客さんは苦にはならない。上司のような自分より責任の重い立場の人ともそれほど苦にならない。その違いはどこにあるのでしょうか。
>上司などから、仕事の事で怒られたりするのはもちろん嫌ですが、仕事なので仕方の無い事だと思っています。一番の違いといえば、「自分を良く見せようとしてしまう事」かもしれません。
ほぉ~、なるほど。「自分を良く見せようとしてしまう事」ですか。しかも、自分と近い立場に居る方に。
>つまり、自分と近い立場に居る方(同じ職場の職員さんや友達など)には「常に良く見られたい」とかと思ってしまう。
ふむふむ。「常に良く見られたい」と。
>嫌われたくない。だから、相手に合わせて気を遣ったりした「作りこんだ自分」がそこにいるんです。
なるほど。嫌われたくない。だから、常に良く見られたい。それで、相手に合わせようとする。
>でも、 それが実は苦痛なんです。でも、そうしないとやっていけないと言うか・・・・
それというのは、「作りこんだ自分」が苦痛ということですか。
>ご老人や子供さんなどにももちろん気は遣いますが、お年寄りや子供と接するのは好きなんです。なぜならそこでは、「素の自分」で良い自然体で居られるんです。つまり、「良く見られたい」とかってあまり思わないんです。その部分が大きい様な気がします。
なるほど。すごく腑に落ちます。「素の自分」は自然体で、「作りこんだ自分」には負荷がかかる。
>頑張ろう!と思えば思うほど上手くいかなくなるんですよね。ほんとうに厄介というか、困りものです。それに加え、余りにも調子が良い時と悪い時の差が激しくて安定していません。だから、最終的に誰かに迷惑をかけてしまうのではないかと思っています。それなら、逆に何もしない方が良いのかなとも思ったりします。そうなると、どうしたらよいかよく分かりません。
●不安と焦り
>不安や焦りというのは、何もしてない事に対しての不安や焦りです。
そうですか。確かに、何もしていないときは不安ですね。何もしていない。何にも属していないというときは、誰かに「今、何してるの?」 とか言われたら答えに窮します。しかも、こう聞かれるのは実は結構きつい。それによって傷つくことも多いと思います。
>そうなんですよね、恥ずかしながら、「今何してるの?」ときかれて、数回、嘘を付いたことがありました。そして、その後で凄く罪悪感で一杯になったりして
そうですか。嘘を付いたことに対して罪悪感まで感じてしまったんですね。しかし、嘘は悪いことでしょうか。場合によっては嘘でもいい(嘘じゃない程度の嘘なら尚良い)のではないですか? それで相手を納得させることが言えたら、少なくとも何も言えないより自分防衛できるのではないでしょうか。例えば、「私は○○で○○をしています」と。
>その時の嘘が唯一の防衛策だった様に感じます。
「嘘も方便」という言葉があります。それは「嘘も場合によっては方法として使われてよい」という意味です。話を整理すると、何もしていないことに対する不安もあるし、何もしていないと「何も答えられない」という怖さもある。だから、何かをしなければいけないと思い焦ってしまう、ということでしょうか。
>確かにそういう部分もあります。しかし、その他にも、将来の事とかを考えてたりすると不安です。言い出したらキリがありません。それで、色々な事を考えてしまうとさらに不安になり、焦ってしまいます。焦らず…分かってはいるんですけど、焦った所で何も変わらない事も、焦ると逆効果になる事も分かってはいるんですけど、やっぱりどうしても色々考えて焦ってしまいます。
●両親との関係
話を変えます。家族の理解は得られていますか。
>両親は、仕事をして欲しいそんな気持ちはもちろんあると思いますが、私の前ではあまり口に出しません。自分のことは理解してくれていると思います。また、私はそういう親に感謝しています。
周りにあなたの話を聞いてくれる人や支援してくれるような人や居場所のようなものはありますか。
>特にありません。しかし、今話をしていて思ったのですが、私みたいな人間でもたくさんの人に支えられて生きているんだなと改めて実感いたしました。それと、自分の言いたい事を正確に表現するのって難しいですね。頭では言いたい事がまとまっているのに、言葉にするとなると、これで良いのか?って思ってしまいます。
(以上)
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