就職の苦しみは理想的な自己像と現実とのギャップ [カウンセリング理論]
カウンセリング分野で代表的なロジャースは、心理的な問題が起こる原因を「自己の不一致」としました。その理論を引用しながら、働きたくても働けない若者の働けない原因を考えてみました。
(前提)
①人は自分について理想的な自己像をもっている。それは自分に対するある種のイメージである。
②自己像は、自分以外の何か(職業、家族、思想、国家)に同一視してできるものである。
③しかも、自分の言動や経験の一貫性のもとになるものである。
④就職の苦しみは、理想的な自己像と現実とのギャップという状況におかれて生じる。
⑤したがって、理想的な自己像と現実とのギャップという状況がなくなれば乗り越えられる。
(事例)
理想的な自己像に問題があるとケースを分かりやすくするため、A君(26歳)に登場してもらう。
A君には理想的な自己像がある。それは「人の役に立てるような仕事に就く」というイメージである。
実は、この職業イメージはA君の父親の影響を受けている。A君の父親は開業医でとても評判が良く、周りの人からもとても信頼されている。
しかし、その父親が忙しかったため、A君は幼いとき可愛がられたり、遊んでもらったことがない。
幼い頃からA君は、そんな父親からいつも「好意を得たい、認められたい」と思っていた。
しかし、気のいい性格のA君は、父親に一切反抗しなかった。だから、「好意を得たい、認められたい」気持ちが満たされない。しかも、不満を自分でうまく処理できずにいた。むしろ、今ではこの処理できない不快な感情をますます意識するようになってしまった。
そこでA君は、この不快な感情や不満の処理を、無意識的に他人を通して軽減しようとした。つまり、自分の「好意を得たい、認められたい」という気持ちを、「他人も持っているに違いない」と思いこみ、他人の「好意を得たい、認められたい」という気持ちを自分が受け入れることで処理すること。
そして、現実にそういう活動をしてみた。
しかし、「人の役に立つ」というイメージは父親と同一視された高い次元の理想像である。そのために、A君は父親と常に比較して「うまくしてあげられない」と思う。だが現実は、むしろA君は他の誰より「人の役に立っている」にもかかわらず…。
他方、A君は自分で思うだけでなく他人が「A君は役に立っていないと思っている」と思ってしまう。
このような活動が積み重なり、身の丈以上の理想的な自己像と経験の間にギャップが生まれる。
A君はこの現実とのギャップを受け入れてしまう。したがって、理想的ではない自己像ができる。
理想的ではない自己像は、A君に不安や焦りを与え、A君を傷つきやすくしてしまう。
(対策)
①理想的な自己像が現実的か、論理的かどうか向き合ってみる
②適応できる範囲内で自発的に自分自身の自己像を選び取る
③でなければ、それらを拒否して別の自己像を作る
といいつつも、私は現場ではなかなかこれができずにいる。なぜならば、次の提案をクライアントに受け入れてもらえないからだ。
①幼い時期の過去の体験は変えられない
②本来、家族や友人はたとえ身近にいても、無条件に好意や愛情を与える存在ではない
③20歳くらいを過ぎると、家族や友人はむしろ彼らの自身の期待にみあうかどうかで、好
意や愛情を与えるかどうかを判断する
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